神戸学院大学人文学部人間文化学科2005年特別講義I編


by shohyo

秘境のキリスト教美術

d0068008_204226.gif 華やかなキリスト教教会で生まれる美術とは対照的に、自ら俗世を捨て修道という特殊な修行を行う者たちが生み出した美術が存在する。
岩山に、砂漠に、柱上に…秘境と言うにふさわしい場所に作られた修道院。そこで生み出された数々のキリスト教美術。本書では、著者が訪れたトルコやヨーロッパの秘境にある壁画や図像を解説するとともに、宗教美術とは何かを明らかにする。そして、生と死の狭間ともいえる過酷な自然の中で修道士たちが築いたキリスト教美術の世界へと読者をいざなうだろう。
まずは、壁画の大宝庫と言われるカッパドキヤに遺る壁画ついて。著者は壁画を、従来の“具象画を取り出した上での図像学的立場”からの研究ではなく修道士の生活の一要素として考え、それが修行する者に対してどのような意味を持ったかを検証している。そうするうちに、カッパドキヤの壁画のうち具象画が描かれていること自体が極めてまれであることが分かる。それどころか、壁画自体描かれていることがまれだったのである。そこで最終的に、“壁画”としてではなく、“洞窟修道院の壁面”と対象を広げ、類型化している。
次に、この地方の洞窟聖堂の壁画の主流を占めている抽象画と、その意味するものを具体的に例を挙げながら解説している。例えば、水甕を中央にして左右に鳩という図柄は、生命の水に信徒が慕い寄ることを意味する初期キリスト教の古い象徴だといった具合である。この他にも、福岡県の日ノ岡古墳の岩壁に描かれている抽象画や、スペインやアフリカの先史時代の岩壁画との共通点を見出している。また、大陸から切り離され、自立的なキリスト教社会を営むことになったアイルランドについても述べている。ここでは、ケルト文化をほとんどそのまま吸収した北方の抽象芸術を紹介している。
そして最後にもう一度、修道院というものについて検証する。修道院を意味するヨーロッパの言葉の中から、cloister(英)、cloître(仏)、Kloster(独)に注目する。これらは、廻廊を意味するラテン語のclaustrumから出た言葉であるが、この廻廊こそ修道院の最も修道院らしい場所であると述べている。そして、スペインのサント・ドミンゴ・デ・スィロス修道院と、フランスのフォントネー修道院の廻廊について解説し、キリスト教美術が終局的に求めるものとは、フォントネー修道院の廻廊に見られるフォントネーの森の奥の静けさの様なものだとまとめている。
   「世の中はかなり変わった。“秘境”が次第に“秘境”として有名になり、
    秘境でなくなったところもある。逆に、政治情勢のために、また秘境的に
    なったところもある。」               補記より)
この本が書かれてから更に月日は流れている。
現在この世界に、秘境とよばれなくなった秘境は、秘境と呼ばざるを得なくなった場所は一体どのくらいあるのだろう。                     文:紅樹
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by shohyo | 2005-07-03 02:01