神戸学院大学人文学部人間文化学科2005年特別講義I編


by shohyo

事物のはじまりの物語      ちくまプリマー新書

 著者は、石井研堂氏の『明治事物起源』という書物を読むうちに、この書物に書かれていない事柄が数多くあるのを知り、自分流の事物起源を書こうと思い立ち、思いつくままに資料を探し出した。書いていくうちに、蚊取り線香、アイスクリーム、電話機など、それぞれに独自の歴史があり、それぞれに人の営みがあることが分かった。
 13の項目に分かれているうちの2つを取り上げて見てみることにする。
まず、『国旗』である。国旗である日の丸は、江戸時代の廻船にかかげられた幟、旗の船印からはじまっている。日本各地に幕府が管理する天領と称された地があって、そこで産した米が、御城米として江戸の幕府に船で運ばれた。初めは、一般の廻船と区別するため、白地に朱色の丸印をえがいた船印がかかげられていたが、幕末になると、開国によって渡来する外国船が多く、それらの船と識別するために使用された。その後、日本のすべての船に同一の船印を立てるべきだということで、日本は日出づる国と言われていることから日の丸が国旗となった。海上を進む船の船印が、そのまま国旗に制定されたとは、いかにも四囲を海に囲まれた島国らしいと言える。
 次に、『電話』である。電話は、1876年3月10日、アメリカ人のアレキサンダー・グラハム・ベルによって発明された。翌年11月には、早くも電話機が日本に輸入され、それは、アメリカにとって商品としての電話機の輸出第一号であった。電話で、私達は最初に「もしもし」と言う。普段使っているのでなんとも思わないが、考えてみれば不思議である。しかし、最初に使用されたのが役所と役所の間であったことから、その理由を知ることが出来る。明治維新後、役所につとめる人は武家またはそれに準じる人が多く、電話の第一声として、「もうし、もうし、そこを行かれる方」などという武家の使った呼び方のもうしという言葉から、「もし、もし」という言い方が使われ、それが百年以上たった現在でも使われているのである。
このように、さまざまな事物が江戸時代や幕末の時代から始まっており、深い歴史があることがわかる。ひとつの項目について、5ページほどにまとめられており、とても読みやすい。また、身近な項目について書かれているので、共感できる部分が多く、とっつきやすい。30年以上歴史小説を書き続け、多くの史料調査で知り得た事柄を持つ著者だからこそ書ける著書である。

文:あやこ
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by shohyo | 2005-07-02 13:40